岩手の花巻に来た。
宮沢賢治ゆかりの土地である。釜石への出発まで少し時間があったので、宮沢賢治記念館を訪ねた。
高台の上にあり森に囲まれている。明るい澄んだ空気に充ちた森で、いつまでの居たいと思う。私は宮沢賢治の顔が大好きで、あの純朴で柔和な表情に心安らぐ。
始めて肉筆を見て納得する。一つ一つがしっかりとした丸みを帯びた筆跡だ。あの有名な雨ニモマケズの詩は、小振りの手帳に書かれており、まるでいつでもポケットに入れて持ち歩いていたような可愛らしい手帳に、大きなカタカナであの詩が綴られている。
記念館を出てもう一度森の空気を体いっぱいに吸い込む。
釜石には2時間ほどかかった。2両編成で昔ながらの電車。高校生が通学で乗り込んでくる。当たり前だが、東京の高校生とは全く違う。オシャレっ気もなく、土地の優しさになじんでいる。これまた心安らぐ。
釜石に着き両石という漁港の状況を見る。途中にある商店街もほぼ壊滅状態。リアス式海岸だったので、津波が増幅し崩壊させた。
釜石駅前の新日鐵工場は操業を再開している。弁当を買いに入ったスーパーにも買い物客はいる。新日鐵で働く従業員の家族だろうか。
両石は400人のうち、40人がお亡くなりになったと聞いた。家を無くした方々は仮設住宅でとりあえずの生活を始めている。岩手でも行方不明者は2000人を超えているはず。捜索はもう諦められているらしい。身内や親戚が行方不明のままどうなったか分からない状態というのは、察するに余りある。
一瞬にして起こった深い裂け目の震災に埋没した霊が安らかに昇天されることを心から願う。