本書ビジョナリーカンパニー4に20マイル行進というキーワードが出てくる。探検家のアムンゼンとスコットの違いを例に、計画とシミュレーションを綿密に行いアムンゼンが無事成功したのに対して、スコットの計画が何故失敗し全員死ぬことになったかから始まる。キャリアも年齢も変わらない二人にこの違いが出たのは何故か?アムンゼンは20マイル行進を行ったということだ。
10×(10倍の成長)型企業と呼ばれる成長型の企業は、決してリスクを冒さずしかしながらリスクを取るときは用意周到の実証主義的創造の上で行うという。20マイル行進は、狂信的なまでの規律を守りながらリスクを控え、それでいて建設的パラノイアに取り憑かれ、リスクを抑えた多数の銃撃テストとしてのマーケット参入を行いながら、実証できたマーケットに大砲を撃つがごとく参入し成長する共通の法則として紹介している。
それでも失敗することがあるので、そのフィードバック能力と建て直しできるキャッシュフローの大切さが、いかに10×型企業に共通しているかを紹介した名著。
より複雑性と不確実性が増す世の中でも成功しているアメリカ企業の共通法則を紹介している。カオス理論でも初期値で後が決まる。
会社の憲法とも言えるSMaCレシピの基本部分は何十年も修正せず一貫した20マイル行進を続けるための根幹。
そして要は最後、人間が大切ということ。企業は有機体だから人間次第。著者のジム・コリンズは、ピーター・ドラッカーの影響を受けているのも分かる。
ベンチャーは、1年で半分が残り、3年で3割、10年で1割しか残らないのだが、有機体である企業は人が財産である事を考えると、イノベーション以上に20マイル行進のマネージメントが成功事例につながることを証明した名著とも言える。
できれば次作で、Google、Facebookあたりを取り上げて欲しいと思った。
Googleも当初90年代後半に身売りを考えた時期があった。ビル・ゲイツがEUの独占禁止法裁判で忙殺されている間隙を縫ってクラウドの時代を作ったのだが、当初はいかにGoogleでもMicrosoftの出方を恐れていたかが知られている。20マイル行進をしていた訳だ。Googleはやってダメだと分かると自社サービスであっても躊躇無く中止する。銃撃テストでダメなら大砲を撃たずにすぐやめるということだ。コストもそれほどかかっていない。
現在ではGoogleもMicrosoftと同じようにEUの独禁法にひっかかっていることを考えると興味深く、統計では、今年の12月にブラウジングベースでFacebookに抜かれることが判明している。
しかしGoogleの強みは人事である。通常、採用に際して、担当は自分より劣った能力の人間を採用したがる傾向がある。採用担当は、自分の優位性をキープしようとほぼ無意識にいいなりになってくれる人材、自分より劣った人材を評価してしまう弱点を、Googleの企業文化で克服している点だろう。
出る杭は引き抜け、だ。
GoogleがFacebookを相当意識して競合サービスのGoogle+を後発で立ち上げたが、この無理矢理戦略が徒となって退職者も出てうまくいかず、現在では、人工知能、ロボットなどを中心とした多様化シナジー戦略でうなるほどの資金バックボーンを背景に邁進している。FacebookはSNS疲れがユーザーの間で徐々に出ている。友達がいいねをクリックしてくれなかったから、どう思っているのだろう?に象徴されるSNS疲れだ。
私もFacebookの掲示板機能は使うが、取引先からのインビテーションが入ると困ってしまうことが多い。よく会う友人でもFacebookではあえて友達にはなっていないし、そのことが当たり前としている。
これから一波乱も二波乱もあることに違いないだろう。
知識は体系だって得ようとすれば書籍のほうに軍配があがり、人との関係の中で育まれるインテリジェンス能力にネット情報はかなわないことを肝に銘じるべきだろう。知識とインテリジェンスは全く違う。そういう意味で複雑化しエントロピーが増大する世界に対して、人間の活動は、アンチ複雑化とも言うべきネゲントロピーの精神活動にあるのだから、この情報すらコモディティ化する世の中において大切なことは何か?そのことを語らないと片手落ちになる。
つまりネット万能ではないし、ネット企業万能でもない。ネットの情報はすでに外に出た情報であり、これから生まれてくる情報ではない。スティーブ・ジョブズが、自分の子どもたちには、ネットを触らせず、本を読んで聞かせていたことは有名で、始めに人間づくりがあり、だ。
そういう意味では、日本が得意とすることをもっと考えてみるべきだろう。日本人のチームワークは会って感じ取り共に生み出すことにあるだろうし、いつまでもアメリカのコピーばかりやっていても仕方がないと思う。しかし、20マイル行進は参考になった(笑)ドラッガーは大の日本好きだったが、日本の凄さが発露されるのは、まだこれからか。
世界広しと言えど、すべてを取り込んで統合し、越えていくことができるのは日本人のみである。そう考えている。日本はシルクロードの東端に位置する情報のインプット回路を持ち、豊かな自然とそこで育まれた日本語が関係している。
大数学者の岡潔さんが論文を発表したとき、欧米では3人の学者による共同研究かと言う。しかし、一人で3つの分野を統合し新たな発表をしたので、驚嘆された。日本人の凄みが伝わる話である。山ほどある日本人の凄い話は、教育の現場で紹介されることが少ない。しかし分かる人には分かっているようで、アメリカ在住のベンチャーキャピタリスト原丈人さんはTwitterで、日本はなんて希望がある国なんだろうと繰り返しtweetしていた。
日本人の創造力はモノ作りに傾注してきたが、後20−30年で新興国にもモノが行き渡るとき、大きな転換が必要となる。それは理念、ビジョンが本当に自社で機能しているか?社員に行き渡っているか?そういう見直しと再構築が急務となるだろう。付加価値を生むアイデアはビジョンを母をするのだから。